ワインお作りします


「人が体調悪いのに来てやったのに。」

そう言いながらブツブツ言う彼。
首には痣がある。

間違いなく、三年前。
私が会えなかった彼だった。


あのワイン、本物だった…。

店員さんは何も出来ないと言っていた。
ただ見るだけだと。

でも、現実にココに居た。
彼に会えた。

「一言伝えたくて…。」

けれど。
それを言うのが精一杯だった。

彼を見た瞬間。
私は泣いていた。

「何、泣いてんの?」

彼はそっと涙を拭いてくれた。
昔と同じ、優しい彼。

優しすぎて無理をし過ぎた彼。

三年前。
彼からのSOSに気付けなかった。
それをずっと後悔していた。

泣き続ける私の隣に彼は何も言わずに腰かけた。

昔も二人で座って缶コーヒーを飲んだベンチ。
また二人で座る事が出来た。
それがまた嬉しくて。


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