四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
外は雨。
私が飛び出すのは大抵雨の日だ。
雨の日はいいことなんてない。
夏目に会いたかった。
もう何もかもどうでもよくて、ただ夏目に会いたい、それだけだった。
びしょ濡れになっても、息が切れても、もしそこに私でない誰かがいるとしても。
こじんまりしたマンションが見える。
あそこで夏目は暮らしているんだ。
いつも変わらず。
同じ時間の流れの中で。
階段を駆け上がる。
呼吸を整える間もなく、インターホンを鳴らした。
「はい。」
やっぱり。
いつも夏目はインターホン越しではなくて、玄関を開けに来る。
「どうしてお前、」
「……っ。」
夏目の顔を見たとたん、いろんな思いが込み上げてきて、何も言えなくなった。
「そんなびしょびしょで、」
「先生、ごめんね。」
「何が?」
夏目は不思議そうに私を見つめる。
久しぶりに、そのまなざしを受けて、私は涙が止まらない。
「泣いてちゃ分からないだろ。しょうがないな、入れ。」
「いいの。ここでいいの。」
「え?」
「先生の顔見られたら、それでいいの。」
夏目は無言になる。
でも、私の言葉を待ってくれているんだと、分かった。
「ごめんね。なつ、守れなかった。」
「なつって?」
「ヒヨコの名前だよ。」
「何かあったんだな。」
「ごめんね……。」
絞り出すような声で言った後、耐えきれずに声を上げて泣いた。
夏目に迷惑だって分かっていながら。
「どうせ今度だって、詩織のせいじゃないんだろ。」
夏目が言った。
初めて私のこと、下の名前で呼んで言った。
「先生……。」
濡れた髪に手が置かれた。
そのまま肩まで手が滑っていって。
そっと引き寄せられた。
夏目の肩に、こつん、と額が当たる。
「いつもお前は雨の中を走ってくるんだな。」
夏目の声がすごく近くで響いた。
私はそっと目を閉じて、夏目の胸に顔をうずめた。
あの夏の、なつを引き取った夏の、おひさまの香りがした。
私が飛び出すのは大抵雨の日だ。
雨の日はいいことなんてない。
夏目に会いたかった。
もう何もかもどうでもよくて、ただ夏目に会いたい、それだけだった。
びしょ濡れになっても、息が切れても、もしそこに私でない誰かがいるとしても。
こじんまりしたマンションが見える。
あそこで夏目は暮らしているんだ。
いつも変わらず。
同じ時間の流れの中で。
階段を駆け上がる。
呼吸を整える間もなく、インターホンを鳴らした。
「はい。」
やっぱり。
いつも夏目はインターホン越しではなくて、玄関を開けに来る。
「どうしてお前、」
「……っ。」
夏目の顔を見たとたん、いろんな思いが込み上げてきて、何も言えなくなった。
「そんなびしょびしょで、」
「先生、ごめんね。」
「何が?」
夏目は不思議そうに私を見つめる。
久しぶりに、そのまなざしを受けて、私は涙が止まらない。
「泣いてちゃ分からないだろ。しょうがないな、入れ。」
「いいの。ここでいいの。」
「え?」
「先生の顔見られたら、それでいいの。」
夏目は無言になる。
でも、私の言葉を待ってくれているんだと、分かった。
「ごめんね。なつ、守れなかった。」
「なつって?」
「ヒヨコの名前だよ。」
「何かあったんだな。」
「ごめんね……。」
絞り出すような声で言った後、耐えきれずに声を上げて泣いた。
夏目に迷惑だって分かっていながら。
「どうせ今度だって、詩織のせいじゃないんだろ。」
夏目が言った。
初めて私のこと、下の名前で呼んで言った。
「先生……。」
濡れた髪に手が置かれた。
そのまま肩まで手が滑っていって。
そっと引き寄せられた。
夏目の肩に、こつん、と額が当たる。
「いつもお前は雨の中を走ってくるんだな。」
夏目の声がすごく近くで響いた。
私はそっと目を閉じて、夏目の胸に顔をうずめた。
あの夏の、なつを引き取った夏の、おひさまの香りがした。