四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
授業の後夏目に呼ばれた。


「小倉。」


私は小声で返事をする。


「なに?」

「お前、篠原さんと何かあったのか。」

「何もないよ。」

「そう。何もないならいいんだけど。」


何を話したところで、今の夏目は私が話すことより、篠原さんの言うことを信じるんだろう。

篠原さんの側に行ってしまった夏目は。

例え私が真実を話しても。

篠原さんが嘘をついているとしても。


「先生。」

「何だ。」

「この前はありがとう。それから……ごめんね。」

「気にしてないよ。」


夏目に突き放されたような気がした。


――いいの。それでいいの、先生。


私を期待させたり、優しくしたり、そばにいたりしちゃいけないの。

本当の優しさと愛は、同時に存在することはできないから。

愛するものを指すベクトルが、違う方向を向いている二人の間に。


「そうだよね。でも、ありがとっ!」


努めて元気に言うと、夏目はほっとしたように少しだけ微笑んだ。


「もういいのか?」

「ん……まだ痛いよ、体中が。」

「そうか。気をつけろよ。」

「うん。」


うなずくと、ちょっぴり胸がうずいた。
< 109 / 182 >

この作品をシェア

pagetop