四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
次の朝、私は夏目に呼ばれて廊下に出た。

HRの前で、みんなすでに教室に入っている。
廊下はひんやりしていて、秋が深まっていることに私は初めて気づいた。


「昨日、お父さんから電話があった。」


私は息をのんで、唇をかみしめる。

まさか、もうその話が夏目の耳に入っているとは思わなかった。

早瀬、そう呼ばれるんだ。

そう思ったら、夏目の声なのに聞きたくないと思った。


「言わなくてもいいか?」

「え?」

「俺の心の中に収めておいてもいいか?」


予想外の申し出に、思わずきょとんとする。


「どうして、」

「クラス固定だから、もう2年近くこのメンバーでやってるだろ。いまさら苗字が変わったら、みんな戸惑うと思う。それから……、」

「それから?」

「お前だって、嬉しくはないよな?」


どうしてだろう、どうして夏目は分かるんだろう。

私の胸の中に、一拍遅れて温かいものが流れ込んできた。

何も言っていないのに。
お父さんがしたひどい事を、一つも明かしたわけじゃないのに。


「うん。そうして。……そうしてください。」


請うような響きになったのは、久しぶりに夏目に甘えたくなったからだ。

それにまた、小倉って呼んでほしい。


「分かりました。」


ちょっとだけふざけて夏目が答える。

目が合って少し笑い合った。

なんだか久しぶりに夏目と通じ合えた気がした。
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