四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
その日の1校時は生物だった。

私は誰より早く生物講義室ヘ向かった。

夏目がどんな顔をしているのか知りたかった。


「先生っ!」


教室に走りこむと、白衣を着た夏目が、遠くを見るような目をして黒板にもたれかかっていた。


「先生っ!どうして!誰があんなひどい事を……。先生は何にも悪くないのに。悪くないのにっ!」


大声を出したら思わず涙がこぼれた。


「先生は、」

「もういいよ。」


夏目の顔を霞んだ瞳で見上げる。

彼は靄の向こうから、こちらを見て微笑んでいた。


「俺なら大丈夫だから。しかも……、」


夏目は一瞬辺りを見回した後、私に一歩近づいて手を伸ばした。

親指が目じりの涙を拭う。


「しかも、ここに俺より怒ってくれた人がいるみたいだからね。」


その言葉に温もりを感じた。

夏目を守りたいと思っても、結局いつでも救われてるのは私なんだ。



チャイムが鳴る。



誰も来ない教室。



ざわざわと生徒が走る気配もない廊下。



しばらくして、夏目は観念したように言った。


「ボイコット、か。」
< 116 / 182 >

この作品をシェア

pagetop