四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
「じゃあ、教科書の154ページを開いて。」


夏目は何を思ったか、授業を始めた。

私は言われた通りのページを開く。


「この間の復習です。気孔を開かせる植物ホルモンは?えーと、じゃあ、……小倉。」

「サイトカイニン。」

「正解。それなら、閉じる方は?小倉。」

「アブシシン酸。」

「そう。離層の形成を促進するのは?えーと、そうだなあ、……小倉。」

「エチレンです!」

「種無しブドウを作るときに必要なのは?小倉。」

「ジベレリン。」

「じゃあ、」

「先生!今日はどうして私ばっかり当てるんですか?」

「小倉ばっかり当てましたか?うっかりしていました。じゃあ、離層形成を抑制するのは?小倉。」

「オーキシンですっ!」

「みんなよく覚えてるから今日の授業は終わりです。ちょっと教卓の周りに集まってくれますか?」


夏目が真面目な顔で言う。

私も笑いをこらえて、さも当然のように教卓のそばに行った。


「しょうがないな、どうしようか。」


急に夏目がいつもの調子に戻って、小声で私に問う。

教卓を挟んで向き合ったら、何故だか無性にドキドキしてしまった。


「生物の話してよ。……いくらでも話してくれるって、約束したでしょ。」

「ああ、そうだったね。」


夏目は嬉しそうに笑う。


「何の話がいいかなぁ。」


時が止まればいいのに、と思った。
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