四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
チャイムが鳴る。

特別な時間が終わる。

夏目は立ち上がると、白衣のほこりをはらった。


「小倉、なんでお前は、ボイコットしなかったんだ。」

「だって、先生は悪くないから。」

「俺が悪いんだぞ。」

「違う。先生のせいじゃない。」


しばらくして、夏目は笑顔で言った。


「ありがと、小倉。」


胸がきゅっと痛くなる。

私に向ける笑顔の数だけ、私は夏目を裏切っている気がして。


「先生の個別指導、好きだなっ!」

「そう?俺はもう嫌だけど。でも、」

「でも?」

「生物の話だったらまたしてやるよ。こんどはもっと、楽しい話にしような。」

「ほんとう?期待してるよ。」


そう言いながら、そんな機会が今後あるなんて、信じられなかった。


夏目と二人になれる場所なんて、どこにもない。

どこにもないから。
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