四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
教室の廊下はいつになくシーンとしている。

だから、教室のドアを開け閉めする音が大きく聞こえて、私はさっきからびくびくしていた。

ガラッと2年1組のドアが開いて、智が出てくる。


「大丈夫だった。夏目先生そんなに怖くなかったよ。」


智が私に耳打ちをして走って行った。

私は深呼吸してから教室のドアを開ける。


「失礼します。」

「はい。」


夏目は白衣を脱いで、白いワイシャツにネクタイ姿だった。

私は少し安心して、促されるままに席に着いた。


「小倉、小倉と。」


夏目は書類を探しているようだった。


「えーと、小倉は成績は全く問題なし。以上。」


終わり?少し期待したのは甘かった。


「で、進路だけど。」


夏目がまっすぐな目を向けてくる。

私は、少し視線を逸らした。


「進路希望調査、特になしじゃ困るんだけど。・・・俺が。」


俺がとか言われても・・・。

私は夏目を困らせたいわけじゃないのに。


「望めばどこにでも行ける成績だ。おまえまさか大学に行かないとか言わないだろうな。」

「そのまさかです。」


私はつとめて笑顔で言った。


「ああそう。そういう選択肢もあるけど。でも、なんで大学に行かないのか、その理由を教えろ。」


理由なんて言えない―――

夏目はだんまりを決め込んだ私を、背もたれに寄りかかりながら待つ態勢に入った。



校庭から聞こえてくる、運動部の掛け声がやけに大きく聞こえる。

別館から届く吹奏楽の音色も。



夏目は一体いつまで待つつもりだろう。

このままじゃ、職員会議に出られないどころか、日が暮れてしまう―――



だけど、夏目は悠々とした表情で、黙っていた。

その表情は、一歩も譲らない、と言っているようで。

逃げ出すことも、いつもみたいに笑ってごまかすこともできなかった。





「本当の両親じゃないから。」




私は、ついに観念した。

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