四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~

なつの魔法

次の日はタクシー見学だ。

私は智と一緒に回る予定だったが、智は別の友達と共にタクシーを待っている。

私を気にする様子をたまに見せながらも、とうとう先にタクシーに乗って行ってしまった。

私は最後のほうで、余ったタクシーに一人で乗りこむ。

行き先なんて本当はどうでもいいと思った。


「海の見える場所に行ってください。」

「海?海ならどこに行ったって見えるよ。どうせなら観光地にしたら?お譲ちゃん。」

「はい。」

「万座毛なんてどう?ここから近いし、海がとってもきれいだよ。」

「じゃあ、そこにします。」

「なんだか楽しそうじゃないねえ。顔色も悪いし。あんまり連れ回さないほうがいいかな?」

「大丈夫です。」


昨日は結局一睡も出来なかった。

おかげで少し体が重い。


「沖縄は、不思議な島だからね。大丈夫、何もかも上手くいくよ。」


運転手さんが、まるで私の考えていることを知っているみたいに言う。

私は少し元気が出た。


「運転手さんのお名前はなんて言うんですか?」

「夏樹敏夫。なつって呼ばれてる。もともとは内地の人間だよ。沖縄の海や自然の美しさに魅かれて、15年ほど前にこっちに来たんだ。」

「なつ……。」

「そう。なつだよ。」


知らないうちに笑みがこぼれた。


「万座毛には君の会いたい人がいる。私のことは気にしないで思う存分思いをぶつけてきな。」

「え……?」

「ほら、ついたよ。」


運転手さんは最後にハンドルを大きく回して、万座毛の駐車場にタクシーを乗り入れた。


「あの、運転手さんって、」

「さあ、行っておいで。」


タクシーのドアが開いて、私は出掛かった言葉を飲み込んだ。

鼻先を潮の香りがくすぐっていく。


「ありがとうございます。」


彼は、どことなく懐かしい顔でふっと微笑んだ。
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