四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
私にとっての優しい時間は、幼いころだ。


父親がいなくて当然だと思っていたあの頃。

母と二人で、それ以上に何もいらないくらい幸せだった。


それというのも、私は幼稚園や保育園に通うことが無かったからだ。


幼いころ、体が弱かった私は、長い間病院に入院していることが多かった。
そんな時、母が休みを取って、ずっと一緒にいてくれる。

それがうれしくて仕方がなかったのだろう。


お医者さんも看護師さんも好きだった。

みんなが優しくしてくれて、わがままを聞いてくれて、苦しい時も寂しい時もなんとかしてくれる。

周りの人は私をかわいそうだと言った。

でも、私にとっては、病院で過ごした日々こそ、人生で一番幸せだったと言えるだろう。


ただ一つ悲しかったことと言えば、母が毎晩のように、私に「ごめんね」とささやいていたことだ。

そのころの私には、母が謝る理由が全く理解できなかった。

だから謝る母を見るのが辛かったし、やめてほしかった。


夏目と一緒にいると、一緒に笑いあうと、そんな遠い昔の優しい時間を思い出すのだ。


似ている、そんなふうに思ってしまうのだ。
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