四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
その日一日中、私は悶々と考えた。

なんだろう、この焦りは。


「じゃあ、この問題は小倉。」

「あ、えと……。」


夏目は容赦なく私をあてた。


「あの、すみません、分かりません。」

「そういうのを、上の空、というんだ。」


夏目の声がいつもより硬質に響いた。私は下を向いた。


「もういい。」


泣きそう、そう思った。

どうして夏目のことになるとこんなに泣き虫になるんだろう。



授業が終わると夏目が近寄ってきた。


「どうした。」

「いいえ、なんでも、」

「何でもないように見えないけど。」


私に向けられた視線の奥深くに、夏目のほんとの優しさが見え隠れしていた。


「先生。」

「ん、」

「……何でもないです。」

「何だ。言ってみろ。」

「すみません。」


そう言って立ち上がると夏目の目を見ないで走り出した。


そうしないと、すぐにも泣いてしまいそうだった。
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