四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
そんな日々が続くこと一週間。

夏目と連絡を取ることもできず、ただ自分の部屋に閉じこもって、勉強しているだけ。

そばにはいつも冬樹がいる。


質問があったら呼んで、と言ったきり、冬樹は自分の仕事に没頭していた。

うるさくないだけまし。

でも、いざちょっとでも外に出ようとすると、すぐに気付いてついてくる。

なかなか手ごわかった。


そんな中、強力な助っ人が現れた。


「ごめんください。」

「どちら様ですか?」

「詩織の同級生の小川智と申します。詩織さんにプリントを届けに来ました。」

「ああ、ありがとう。渡しておくよ。」

「いえ、私が渡したいんです。先生から伝えるように言われていることもありますので。」

「……長居するんじゃないぞ。」

「もちろんです。お邪魔します。」


智。


嬉しかった。


智が私を訪ねてきてくれるなんて。


しばらくして、ノックの音が聞こえた。


「詩織、いる?」


ドアまで走っていって開ける。


「智っ!」

「詩織!」


手を取り合うと、冬樹が不審そうな顔で見ていた。


「長居するなって言われてるから、すぐ帰るけど……、」


――夏目先生が頑張れって。


瞬時に耳打ちをする。


「それからこれ、プリント。……これから毎日来るからね!」

「ありがとう。ありがと、智。」

「このくらい何の!じゃあね。頑張れ、詩織!」

「うん。負けない。絶対負けない!」


智はあっという間に帰って行った。


渡されたプリントに目を落とす。

今日の授業で配られたプリントと、智のノートのコピー。

それから、それに紛れるようにして、一枚のルーズリーフが挟まっていた。


「詩織へ。」


その文字を見れば分かる。

誰からのメッセージなのかは、読まなくても分かる。

冬樹の視線を感じていたので、あえてその場では読まないことにした。


「俺はさ、そんなに悪いやつじゃないから、細かいことはお父さんには言わないけどさ。」


急に冬樹が言った。


「とりあえず、脱走はやめろ。怒られるのは俺なんだからな。」

「分かってるよ。でも、見逃してくれてありがとう。」

「お前に感謝されるなんて、俺はつくづくばかなやつだと思わないか?」

「そうだね、思うよ。」

「おまっ!調子に乗りやがって!」


怒った冬樹が面白くて、思わず私は笑い出した。

つられて冬樹も笑う。


「小倉、お前初めて笑ったな。」

「え?」

「笑ってる顔の方がいいぞ。」


冬樹が言う。


この人は、本当はそんなに悪い人じゃないんだな、と私は気付き始めていた。
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