四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
字が荒いなんて言いながら、夏目の字はすごく整っている。

読みながら、少し低めで良く通る夏目の声が蘇ってきた。


待っていてほしい。


私は夏目に頼らなくても、自分でここを出ていくつもりだった。

でも、最近それが難しいことに気付き始めて。

本当に信じていいなら、夏目を信じる。

ここから救い出してくれると、信じてる。


愛してるよ。


その言葉の重みを感じる。

でもそれは、心地よい重みだった。




目を閉じると、夏目のほっそりした背中が浮かぶ。

そして、そのシルエットはゆっくり振り返る。

背中に一杯の光を浴びて、夏目はうっすら微笑むのだ。


「愛してるよ。」


その言葉は、どんな言葉より私の耳に、優しく響くだろう。


うなずくと、一層微笑みを深めて夏目は笑顔になる。

嬉しくて仕方がないような、無邪気な目。

それでいて、少しだけ寂しさの残る口元。


ああ、私はこんなにも夏目を愛している。




その日はいつまでも寝付けなかった。

想像の中の夏目が、美しければ美しいほど、手が届かないような気がして。


どうしてこんなに切ないんだろう。

どうしてこんなに悲しいんだろう。


布団の中で私は、嗚咽しながら手紙の文章を思い返した。


――待ってるよ、先生。待ってるから。


唱えるうちに、いつのまにか眠りに落ちて行った。
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