四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
「夏目先生へ」


私は今、うっすらと日が射してきた早朝のベッドの上で、この文章を書いています。

書き終わるまでに家庭教師が起きないか心配しています。

だから、ほんとに読みづらい字だけど、許してね。


私はなかなか厳しい状況にいます。

逃げ出せると思っていたけれど、そうもいかないみたいです。

先生に会いたくて仕方がなくて、苦しい。

でも、先生の言葉を信じています。

信じて待っています。


一番伝えたいことは書いたから、ここからは私の気持ちを書きます。

私はね、先生。

先生と普通の恋がしたかった。

こんな窮屈な恋じゃなくて、普通の恋がしたかった。



春に、先生と出会えた時、まるで魔法をかけられたみたいに私の心はほぐれていった。


中学二年生のときから、私の心はずっと凍りついてた。

でも、先生は嘘みたいに、その心を溶かしてしまったんだよ。

私はね、幼稚だけど笑わないでね、四月の魔女が先生と出会わせてくれたんだって、そう思ったんだよ。

奇跡的で、尊くて、先生と出会ってからの日々は、嘘みたいに輝き始めた。

もしも先生が先生じゃなかったら、私がお父さんと会ってなかったら。


たまにね、そう思うんだ。


そしたら、季節は穏やかに流れて行ったね。



春は、四月の魔女のおかげで先生と出会って、桜の木の下で告白するの。

夏は、先生と海に行ったり、お祭りに行ったり、花火を見たりするんだ。

秋は、美術館とかもいいね。先生の部屋で、二人で並んで寝転びながら、本を読むのもいいな。

冬は、雪の降る中を二人で歩くの。手をつなぎながら。お互いの温度で、降り積もる雪も溶かしてしまう。



そして、二度目の春が来て、三度目、四度目……。

繰り返す季節の中で、穏やかに、誰にも邪魔されずに、愛を育んでいくんだよ。



でもそもそも、先生が先生じゃなかったら、会えなかったかもしれないね。

それは困る。



先生は、私に会って幸せ?

後悔したり、してない?



先生がね、遠くに、遠くに行っちゃうような気がして、夜も眠れないんだよ。

どこにも行かないで。

お願い。

ずっと、ずっと、私のそばにいて。



愛しています。



詩織
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