四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
その日も同じ時間に智はやってきた。

私は、冬樹に背を向けて、智に小さく畳んだ便箋を手渡した。


「お願い。」

「分かった。」


耳打ちし合う。

冬樹は気付いているかもしれない。

でも何も言わなかった。


「詩織、夏目先生追い詰められてるよ。」

「え?」

「先生たちがみんな、悪いうわさを立てて、誰も夏目先生に近づこうとしないんだ。それをいいことに、篠原さんはいつも夏目のそばにいる。」

「そうなの……。」

「年配の先生なんて、わざわざ職員室で忠告したりするのよ。」

「なんて?」

「生徒に手を出すなんて考えられない、とか、教師の風上にも置けない、とか。」

「そっか……。」

「まずいよ、詩織。このままじゃ、夏目先生が、」

「大丈夫。信じてるから。私は先生を信じてる。」


半ば自分に言い聞かせるように言った私を、智は悲痛な顔で見た。


「私も毎日、夏目先生のこと励ましてるから。」

「ありがとう。」


智はじゃあね、と言って部屋を出て行った。


夏目が苦しい状況にあることは分かっていたけれど、現実は甘くなかった。


そろそろお互いに限界が近づいていることに、初めて気付かされた気がした。
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