四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
次の日、いきなり父親が部屋に入ってきた。


「詩織、転校の準備ができた。明日、東京へ引越すぞ。」

「何を言っているの?」

「東京へ引越すと言ってるんだ。今回は一日も待たないぞ。明日の昼にはここを出る。」

「挨拶とかしなきゃ。」

「そんなものは要らない。」


私は父をきっとにらみつけた。

でも、父は余裕の表情で笑っている。

そうなんだ。

私が抵抗してみたところで、所詮力には対抗できない。

きっと、どんな手を使ってもこの人は私を東京へ連れて行くだろうなと、そう思った。


心配していたけれど、智はちゃんと来てくれた。

うまくやって、部屋にまで上がってきてくれる。

智がいなかったら、誰にも知られることなく東京に行っていたんだな、と思うと、智の存在がありがたくて仕方がなかった。


「これ。今日の分のノート。」


挟んである夏目からの返事を、ちらりと見せながら智が言う。


「智、」

「なに?」

「明日ね、明日……、私引っ越すんだ。」

「え?」


智が訳が分からないという顔をする。


「引っ越すの?どこに?」

「東京。」

「そんな……。」

「お願い。夏目先生に伝えて。どうしても行けなきゃならないんだって。逃げられなかったんだって。」


言いながら涙がこぼれた。


「でもいつか、また会えるから。絶対、絶対会えるからって、夏目先生に、そう言って。」

「詩織……。」


智も泣いていた。


「そんなこと、そんなこと……。」


もう冬樹の存在なんて忘れていた。

二人で抱き合って泣いた。


「ひどいよ……。」

「ごめん。」


しばらくして、智は私から離れると、涙を拭った。


「これじゃあ、不審に思われちゃう。」


そして、無理に笑って見せる。


「じゃあね、詩織。」

「うん。じゃあね、智。」


言い合うと再び互いの顔が歪んだ。

思いを断ち切るように智がドアを開ける。


智とはもう、これっきりなのだろうか……。


その時振り返って、智が笑顔を向けてくれた。

そして私は思ったのだ。

何とかなる。

絶対何とかしてみせるって。
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