四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
詩織へ


今頃君は、俺のことを嘘つきとなじっているところだろう。

だが、詩織。
分かってほしいんだ。

君はまだ若すぎる。
これからの未来には、どんなに楽しいことが待ってるか。


俺は、君に出会って、救われた。
あるいは君も、そうだったのかもしれないね。

だけど俺は、君をどうしても不幸にしてしまうんだ。


俺は仕事を失ってもいい。
でも君は……、俺は君を、これ以上不幸にすることはできない。


本気だったさ。


昨日の夜は、本気で、君を連れて逃げようと思った。

でも、考えてごらん。

どんな手段で逃げたとしても、捕まらずに逃げることなんて不可能なんだ。

もし本当にどこまでも逃げるなら、それは……。

死ぬしかなかったんだよ、俺たち。


でもそんなこと、本当は考えちゃいけなかったんだ。

俺は、最低の方法で君を連れ出そうとした。

君が不幸になることばかり、俺は繰り返すんだ。


自首するよ。


俺が早瀬さんを殺害したと。

お願いがある、詩織。

決して、決して、自白などしないでくれ。

最後くらい、俺に君のために何かをさせてほしいんだ。


それから……。


俺のことは忘れてほしい。

君は殺人犯ではなくて、普通の誰かと、普通の恋をするんだ。

そして、俺の分まで、幸せな家庭を築いてほしい。


約束だ。


でも、忘れないで。
俺は、君のことを愛しているから一緒に逃げなかったんだ。

それだけは、分かってほしい。


では。

君の行く末に幸多からんことを。



夏目
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