四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
「ちょ、先生どこに、」

「しっ。」


夏目は普段生徒が使ってはいけないエレベーターに、私を乗せた。

さっきまで教室が薄暗かったので、エレベーターの明かりがまぶしくて、目を眇める。

霞んだ視界に、なるべく私から離れて立つ夏目が映っていた。


「先生、」

「着くまでお喋りはなしだ。」


笑わない夏目と、こんなに近くで話もしないでいるなんて、耐えられない。

すごく長い時間が過ぎたような気がして、エレベーターは4階に着いた。


「走るぞ。」


そう言うや否や、夏目は私の腕を引っ張って走り出した。


廊下の突き当たりには生物準備室がある。

夏目はポケットから鍵を出して、急いで扉を開けた。


暖かな電気がついて、夏目がドアを閉めると、やっと夏目の意図していることが分かった。


「お前の気のすむまでやってていい。ただし、俺は寝てる。終わったら起こせ。」

「いいんですか!」

「ああ。……あ、その前に教室の鍵返してくるな。」


そう言って夏目は出ていき、誰もいない準備室に一人取り残された。

さっきまでの安心感は嘘のように消え去り、急に私は落ち着かなくなる。


仕方がないので、夏目の席を探して腰かけた。

ここでいつも夏目は、採点とかしてるのかな……。

悪い点だと、ばかやろう、とかつぶやいて。


ふと見ると、例のハンカチが机の隅に置いてあった。

久しぶりに感触を確かめようと手を伸ばす。

裏に紙の感触を感じて見ると、小さな付箋が付いていた。


『小倉の』


それだけ書いてある。

几帳面で、整った夏目の文字。


その文字を見ていたら、急に夏目が恋しくなった。

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