四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
遠くから聞こえる話し声と足音に嫌な予感がした。
私は下書きを書いた紙を持って、ソファーの後ろにさっと隠れる。

ノックの音と同時にドアが開く。


「生徒会でーす。残っている生徒はいませんか。」

「てか、この部屋先生いるの?戸締りし忘れたとか。」

「いるだろ、夏目先生とか。」

「じゃあ、後でもう一度確認しに来よ。」


バタン、とドアが閉まった。


私はひそめていた息をそっと吐き出す。

気付いてみると、寒いわけではないのに指先が冷たい。
私、緊張してたんだ、と思う。


と、その時再びノックの音が響いた。


私はとっさのことに驚いて、あわてて身を隠す。

心臓がバクバクと音を立てた。


足音が、だんだん近づいてくる。

何かを探しているように。

私は観念して、ぎゅっと目を閉じた。


そして、ついにすぐ近くで足音が止まった。


「なにしてる?」


夏目は心底分からない、といった表情で私を見下ろしていた。


「な、んだ……先生かぁ。びっ、くりした。」


驚きすぎてちゃんと言えない。


「お前、もしかして隠れてたのか?」


そう言うや否や、夏目は笑い始めた。


「ばか。小倉ってほんとに……はは。」


夏目の笑いはなかなか止まらない。

私もつられて笑いながら、裏腹に何故か涙が出てきた。


「怖かったんですっ、先生が一人にするからっ!」


夏目は急に笑うのをやめた。


「すまなかった。」


大人びた夏目の声が私の心を揺さぶる。


「もう大丈夫だ。」


さっきとは違う微笑みを浮かべて、夏目は言った。


「寝ないでいてやるから。仕方がない子だな。」


約束通り夏目は私が下書きを終えるまで、ずっと隣にいてくれた。


下校時間を過ぎても、真っ暗になってしまっても。

夏目の隣にいれば、すべてを忘れていられたんだ―――
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