四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
「テストを返す。」


夏目は、重々しく宣言した。

黒板に、『平均点64点』と書く。

その下に、『最高点88点』。


そして、欠点者、と書いたところで夏目は手を止めた。

みんなが夏目の指先に注目している。

夏目は、ゆっくり縦に一本線を引いた。


「おい、赤点誰だよ?」


即座に教室が騒がしくなる。


「詩織、どうしよう。私だよ多分……。」


智が心底おびえた表情で言う。

私は大丈夫だよ、と掠れた声で言った。


番号順にテストが返されていく。

夏目は前と同じように、一人一人に声をかけながら返す。

順番はあっという間に回ってきた。


「小倉。……後藤。頑張ったな。」


私だけ、無言だった。

やっぱり、目も合わせてくれなかった。

私は、取り返しのつかないことをしてしまったことに気付いた。


――私、夏目に嫌われたんだ……。


解答用紙を広げると、バツはついていなかった。

0点とも書いてなかった。

でも隅に、放課後職員室、とだけ書いてあった。

なんだか、無性に寂しかった。


私は、逃げ出したいような気持ちで、テストを折りたたんだ。
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