四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~

悲しみ

とぼとぼと家に帰り、玄関のドアを開けると、叔母がなにやら慌てていた。


「ただいま。」


わざと気付いていないふりをする。

叔母が私に内緒で何かをするのは、いつものことだった。


いちいち確かめずに部屋に逃げ込もうとしたとき、私は気付いてしまった。


「叔母さん、それっ……。」


優香が着ているのは、私のワンピースだった。

ううん、違う。

正確に言えば母のもの。

私と体型が似ていた母は、私が気にいると服を譲ってくれていたのだ。

私が持っている、唯一のお気に入りの洋服。


「あ、ごめんね、詩織ちゃん。でももうこんなの詩織ちゃん着ないでしょ。優香に譲って……」

「嫌っっ!!!」


私の中で何かがはじける音を聞いた。

私は、泣き出す優香から無理矢理服を奪い返した。


「何するのっ、詩織!」

「嫌!どうしてそっとしておいてくれないの。どうしてお母さんの……」

「姉さんはもう死んだの。あなたのお母さんは私!誰が今まで養ってきたと思ってるの?」


叔母が私に対して、初めて怒鳴った。

確かに、確かにそうだ。

母を亡くしてから3年以上叔母夫婦のもとでお世話になっている。


本来ならそんな必要はなかったのに。

私は、叔母にとっても、邪魔な存在なのに。


でも、どうしても、どうしても許せなかった。

私の母は、死んでしまった、私が死なせてしまったお母さん、ただ一人だ。

両手で握りしめたワンピースとともに、私は家族に背を向けた。


誰一人として理解者でない家族に。
< 32 / 182 >

この作品をシェア

pagetop