四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
「あなた、誰、ですか?」



私の問いかけに男は笑った。


「後で話してやる。まあ、そう急ぐな。」


私はもう、この人に話しかけるのはやめた。

私はどうせ、誰からも愛されることのない存在なんだ。

だったら、もうどうなったって構わない。


しばらくして、男は見たこともない高級ホテルの前で車を止めた。


「さあ詩織ちゃん、どうぞ。」


ドアを開けた男が、私に向かって手を差し出す。

おずおずとその手を取ると、男は満足そうに笑った。


ホテルに入ると、数名の従業員にお待ちしておりました、と迎えられた。

エレベーターで気が遠くなるほど上まで上がる。

そして通された部屋には、とんでもなく大きな窓があった。


「夜景が綺麗でしょ。」


私の視線に気づいたのか、男が微笑んだ。

人を落ち着かない気分にさせる笑みだった。


テーブルに向かい合って座ると、察したようにウェイターが出ていく。


「気になってるようだから、料理の前に自己紹介をしよう。」


男は笑って言う。

私はかろうじて頷いた。


「ほんとに知らない?俺のこと。」


こくり、と頷く。

有名人だったらどうしよう、とかそんなことを考えていた。




「そっか、分かんないか。……俺、詩織のパパなんだけど。」
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