四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
「え……」


驚いて声も出ないとはこのことだ。


「い、今、何て。」

「俺は、詩織のパパだって言ったんだよ。早瀬卓也。名前くらい知ってるだろう?」


彼は余裕の笑顔で言い切った。

早瀬卓也。

確かに聞いたことがある。

というよりも、それは私にとって、胸を切り裂くような痛みを伴う記憶で―――


「しょっ、証拠は・・・」


ははは、彼は楽しそうに笑う。


「証拠?そうだなあ。写真があるよ。」


そう言って早瀬が取り出した写真を見て、私は息をのんだ。

そこには、小さな小さな私と、傍らで微笑む母の姿が写っていた。


「これっ!」

「お母さんだよね。」


見る見るうちに私の目に涙が浮かんだ。

母が亡くなってから、私は一度も写真を見ようとはしなかった。

見ることができなかったのだ。


「ごめんね、詩織ちゃん。」


そう言って、早瀬はさりげなく写真をしまった。


「早瀬さん……。」

「お父さんって、呼んでくれないの?」

「……ごめんなさい。そんな、急に、」


早瀬は少しだけ寂しそうな顔で笑った。

私は心の中で早瀬に、ごめんなさい、とつぶやいた。

この時は、早瀬の本性に気付くこともなくて。
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