四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
家に帰ると、もう叔母は早瀬から連絡を受けていたようで、何も言わなかった。

私は部屋でじっと考えた。


あの人が父親であることは、おそらく間違いはないのだろう。

言われてみれば、早瀬は私に似ているところがある。

でも、何かが心の中に引っかかっていた。

「迎えに来た。」早瀬はそう言った。


なんで、一緒じゃだめだったの。

どうして家族に迷惑かけたくないなんて。

迷惑かけても、かっこ悪いところ見せても、それが家族というものではないか。


考えながら、無意識のうちにスマホの画面を見つめていた。

着信履歴6件。

誰からだろう。


その時、携帯電話が鳴った。

なんだろう、こんな時間に。


「はい。」

「やっと出た。」

「先生?どうして、」

「ばかやろう。」

「え?」

「心配かけて。」


どうして夏目が心配する?

帰れって言ったくせに。

怒ったように準備室から追い出したくせに。


「お前の様子が気になったから、追いかけたんだ。……そしたら、家の前でお前が車に乗せられてて。追いかけたけど、追いつくはずもなくて。」

「先生!」

「お前の家を尋ねたけど、叔母さんは曖昧なことしか言わないし。……心配したんだ。」


驚いた。

夏目が、そんなふうに私のこと、心配してくれたなんて。

だけど、何故だか素直になれなくて―――


「誰にでも着いていくんじゃない。」


その言葉で、私の中の何かが刺激されて、泣きたいような怒りが込み上げてきた。


「誰にでもじゃない。お父さんだもん!」

「そいつはお前を捨てた男じゃないか!何がお父さんだ。ほんとのお父さんは、」

「先生のばかっ!!お父さんはお父さんだもん。私のお父さんは一人しかいない。あの人しかいないのっ!」


部屋に静寂が戻ってきた。

夏目は電話の向こうで黙り込んでしまったらしい。

しばらくして、すまない、という細い声が聞こえた。


「余計なことを言った。……でもほんとに、気を付けるように。」


怒鳴ってしまった夏目に対する罪悪感で、私は何も言えなかった。

分かってる。

夏目が言おうとしていたことは正しいんだと、心のどこかで分かってる。

でも、信じたいんだ。

私のお父さんを。私を迎えに来てくれたお父さんを。


「じゃあ。明日はテストだぞ。」


そう言って電話は切れた。

明日どんな顔でテストを受けに行ったらいいのか、考えるだけで憂鬱になる。


夏目に取り上げられたハンカチのことをなぜか思い出して、余計に気持ちはかき乱された。
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