四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~

仲直り

「詩織、おはよっ!」

「おはよ、智。なんか朝から元気だねー。いいことあった?」

「そーう。」


智は楽しそうに笑った。

私は嫌な予感に耐えなければならなかった。


「聞きたい?詩織。夏目先生のことなんだけど。」

「うん。聞きたい。」

「あのね、昨日私珍しく図書室で勉強してたんだよ!でね、気付いたら夏目先生がノート覗き込んでて。
よくやってるな、ってほめてくれたの。私実は親とけんかして家に帰りたくなかっただけなんだけど。で、
下校時間になってもそこにいたら、夏目先生戸締りしにまた来たの。ほら、早く帰れ。とか言って。でね、
私思わず言っちゃったんだ。帰りたくない、って。」


なにそのどっかで聞いたことあるセリフ……。

私は何でもないような顔で聞いているのが苦しくて、耳をふさぎたくなった。


「そしたら先生、図書室でずっと生物の話してくれたんだ。女王蜂の話とか、深海にすんでる貝の話とか。
すっごく面白かった。夏目先生ってね、理学部の研究室にいたんだって。だからだよ、すっごくいろんなこと知ってる。」


そっか、あいずちを打ちながら私は心が折れそうだった。

知らなかった。

夏目が研究室にいたなんて。

そんなに沢山生物のこと知ってるなんて。

そんなに優しいなんて。

帰らないでいいなんて。


私、勘違いしてたんだ。

放課後旗作るときに一緒にいてくれた夏目は、

ハンカチを取り上げて私の痛みを少しだけ代わりに背負ってくれてる夏目は、

いつもいつも心配しすぎなほど気にかけてくれる夏目は、

私だけのものだって、勝手に思ってた。


違うんだ。

夏目には愛する人がいる。

夏目をあんなに切ない表情にさせる人がいる。

私も智も、ただの生徒に過ぎない。

気に掛けるのは担任だから。

責任があるから。



やっと気付いた――
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