四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
夏目はいつも白衣を着ている。

ほっそりとした体型に白衣はとてもよく似合う。


でも、私はあんまり好きじゃない。


白衣は医師のイメージ。

奇跡を起こしてくれそうで、でも現実には無力な一人の人間。


私は母を亡くすまで、医師になりたかった。

でもその夢はあの日に崩れ落ちたから・・・

今は特に夢がない。夢なんかあってはいけないのだ。



「小倉、どうした。」



廊下をぼうっとして歩いていたのは、夏目にばれていたらしい。



「どうした、って。何がですか?」



努めて元気な声で言うと、先生は笑った。

なによそれ、と思う。

そんな何もかもわかってるみたいな顔で。



「先生は、どうしていつも白衣着てるんですか。」

「チョークでスーツが汚れるから。」



そう言って先生は背を向けて去っていく。

夏目は気さくで優しそうに見えるけれど、簡単に生徒に心を許さない。

やっぱり手強いかも、と私はため息をついた。
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