四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
「別にいい」って言ったのにはわけがあった。


私は、夏目が校舎から出るタイミングを見計らって、あとをつけることにしたのだ。

セーラー服では、少し目立ちすぎるけれど……。

仕方ない。


夏目はこの前乗った逆のバス停で、バスを待っている。

見つからずに乗り込むのは至難の業だ……。


やがて、バスが来た。

空いている。

私は夏目の後から乗り込んで、最前列に滑り込んだ。

でも、冷静に考えたら、夏目が降りるときほぼ確実に見つかってしまう。

私は薄手のパーカーを取り出して、セーラー服を隠した。


しばらく乗って、夏目が降りるボタンを押した。

私は、夏目が降りるとき、わざとものを落としたふりをして、窓側にかがみこんだ。


「ありがとうございましたー。」


運転手さんの声がして、ドアが閉まる。

どうやら見つからなかったみたいだ。


「あのっ!私も降ります!」

「ああ、すみませんねー。」


ドアが再び開く。

夏目が少し振り返ったように見えたのは気のせいだと思いたい。

私はそのまま隠れながら、夏目の背中を追いかけた。


商店街を抜けて、路地に入る。

と思うとまた商店街。

気が遠くなるほど歩いて、やっとマンションに着いた。


こんなに毎日歩いてるなんて、先生大変だな、と思いながら階段を上っていく背中を見つめる。


小さなマンションだから、何号室かはすぐにわかると思った。


部屋の鍵を開けて夏目が入っていく。


帰ろうとしたその時、なぜかもう一度ドアが開いて夏目と目が合った。


「……!!」


びっくりしたのは私だけみたいだ。

夏目はあきれた顔で手招きした。


「おじゃま、しまーす。」


夏目が吹き出した。


「何笑ってるの?」

「いや、すまなかったな。」

「何が?」

「むちゃくちゃ遠回りしたんだ。疲れただろ。」


夏目はいつまでも笑いが止まらない。


「ばれてたんだね。どこから?」

「バス乗るとこから。だってお前、普通気付くだろ……。」


また笑い出した夏目はやっとのことで笑いを止めた。

冷蔵庫を開けて、麦茶を入れてくれる。


「お疲れ様。よくここまで着いてきました。」

「先生のばか。」

「ばかはお前だろ。」

「でもどうするの?私、先生の家に上がりこもうなんて思ってなかったのに。厄介なことになるんでしょ?」

「大丈夫だろ。やましいことはないんだし。」

「先生変なこと考えたでしょ!」

「ばか。人の家に上がりこんでおいて。」

「だから、そんなつもりなかったって……。」

「もう来るんじゃないぞ。」


夏目にぴしゃりと言われて、仕方なく頷いた。


「ごめんなさい。」

「道分かる?」

「ううん。」

「じゃあ、バス停まで送ってくから。まっすぐ帰るんだぞ。」

「今度は最短ルートでお願い。」

「分かってるよ。」


また込み上げてきそうな笑いを、必死にかみ殺してる先生の顔が、面白くて今度は私が笑ってしまった。



バス停でバスが来るまで、夏目も一緒に待っていてくれた。


「小倉さ、……俺のどこが良くてそんな……。」

「何?」

「いや、やっぱりいい。」

「バス来た。」

「じゃあな。また明日。」

「明日も一緒にご飯食べてね。」

「今日だけって言っただろ!」

「どうせ先生だって一人でしょ。」

「仕方ないな……。」


夏目はしぶしぶうなずいた。

同時にバスが停車して、ドアが開く。


「そういうところだよ。」

「え?」

「じゃあね!」


バスに乗って、考え込んでいる夏目に手を振った。


夏目は、思い出したのかまた笑い出しそうな顔になって、そして手を振り返してくれた。
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