四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
家に帰ると、昨日と同じように早瀬が出迎えた。


「じゃあ、もういいかな?支度して。夜までにはここを出るから。」


頷いて、部屋に向かう。

荷物はそれほど多くない。

ここに引っ越してくるときに、母を思い出すものはほとんど置いてきた。

その時から、さほど荷物は増えていなかった。


ベッドの下から段ボール箱と電気スタンドを引きずり出す。


「なつ。」


もう、その名を唱えることさえ私にはつらかった。


「なつ……。」


涙があふれてくる。


「なつだけが一緒だよ。ずっと、一緒だよ。」


小さな命は、ピヨと頼りなさげに羽を震わせた。


「詩織ちゃん、準備はまだ?」


階下から早瀬の声が聞こえる。


「もういいです。」


小さな声で答えた。

結局荷物は、大きめのボストンバックにすべて詰まった。


ここに来たときは、早くどこかに行きたいと思っていた。

ここは、私の居場所じゃないと、心が叫んでいた。

今だって同じだ。

でもやっと見つけたのに。

やっと素直になれる居場所を、あの人の心の中に見つけたのに。


玄関から出ていく私を、叔母が愛想よく見送る。


「詩織ちゃんがいなくなると、叔母さん寂しいわ。元気でね、詩織ちゃん。お父さんと幸せに暮らすのよ。」

「今まで……今まで、お世話になりました。」

「いえいえ。」

「あの……このワンピース、優香ちゃんにあげてください。母のワンピース。私……いらないから。」

「あらそう?ありがとう。優香喜ぶわ。」


ここに来た時と同じだ。

心が抜け落ちたみたいに、私は無表情だった。


「詩織、いくぞ。」


早瀬が呼んでいる。


私は言われるままに、高級車の助手席に乗り込んだ。
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