四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
シャワーを浴びて冷えた体を温めた。

夏目が貸してくれた、私にはちょっと大きいトレーナーを着る。


「大きいか?」


ドアを一枚隔てて夏目の声がする。


「うん。ちょっとね。でも大丈夫。」


濡れた髪はそのままにして、私はドアを開けた。

夏目が一瞬目を逸らす。

そんな夏目が、私は愛しかった。


落ち着いてから、夏目が温かいコーヒーを入れてくれた。


「夏休みが明けるまであと9日だ。」

「うん。」

「なぜそんなに必死になって、俺のとこなんかに来た?」

「……。」

「これだけは答えてもらうぞ。いくらお前が答えたくないと言っても。」

「……。」

「家の人となんかあったのか?そうだろ。」

「……。」

「うなずくくらいしろ。そうじゃなきゃ分からないだろ。」

「先生。」

「ん?」

「私のこと大切?」

「……え?」

「先生としてでもいい。私のこと、大切?」


夏目はしばらく迷った後、きっぱりと言い切った。


「ああ。大切だよ。」

「じゃあ、あの人と一緒だね。お父さんと、一緒だ。」

「お父さん?」

「お父さんも私のこと大切だって言ってくれた。でも、先生もおんなじなら、私……行かなくていいよね。お父さんと
一緒に行かなくっていいよね?」

「待て、どういうことだ。」


夏目が急に真剣な顔で身を乗り出した。


「お父さんと会ったのか。一緒に行こうって、そう言ったのか?」


私はこくりとうなずいた。


「どこに?ここのそばか?」

「ううん。東京。」

「え?」

「転校すればいいって。あの人が。」

「いつ言われたんだ?」

「昨日。」

「何故学校で言わなかった?」


夏目は苦しそうに顔をゆがめた。


「行かなくていいよね。」


随分長い時間が過ぎた後、夏目は深いため息とともに言った。


「行った方がいい。」


頭の中が真っ白になった。
< 61 / 182 >

この作品をシェア

pagetop