四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
早瀬との共同生活が始まった。


「詩織、おはよう。」

「おはよう!お父さん。」


昨日の出来事以来、随分早瀬に近づけた気がする。

それは早瀬にとっても同じみたいで、作り笑いみたいな表情が、少し和らいだ。


「朝ごはん作るよ。」

「え?いいのかい?」

「当たり前じゃん。」


早瀬はこういう時、本当に嬉しそうな顔をする。

その顔を見ると、私もちょっぴり嬉しくなるんだ。


「できたよー。」

「詩織は料理が上手だな。どこで習ったんだ?」

「習ってなんてないよ。料理の本見ながら、自己流で作ってるの。」

「嘘だろ!すごいな、しかし。」


どんなにすごい料理を作ったかと言えば、お味噌汁に、ご飯に、焼き鮭に、ほうれん草のおひたし。

こっちが恥ずかしくなるほどほめたたえる早瀬が、なんだかおかしくて笑えた。


「お父さん、お仕事はいいの?」

「今は夏休みだからな。でも来月にはまた東京を本拠地に、働かなきゃならない。」

「そうなの。」

「東京にいればすぐに様子が分かるのにな。」


早瀬はふと寂しそうな顔をする。


「大丈夫だよ。私もう、高校生だもん。」

「あいつは誰だ。」

「え?」


箸を取り落しそうになる。

急に硬質になった早瀬の声に、心臓をつかまれたみたいな気持ちになった。


「あいつって、」

「詩織が助けを求めた、あの男だ。」

「先生……。」

「学校のか?」

「そう。」

「昨日、電話で話した。あんな男のどこがいい。」

「え……。」

「すまない。朝からするような話じゃなかった。」


早瀬はまた、作り笑いに戻る。


私は、落ち着かない気分で、その顔を見つめていた。
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