四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
コンコン――

久しぶりに生物準備室の扉をノックする。
夏休みじゃないから、他の先生もいることは承知だ。


「はい。」


そうっとドアを開ける。

また戻ってこれたことが、私は嬉しかった。


「せんせ!」

「なんだ、小倉か。」

「あれ、先生ひとり?」

「ああ。ほかの先生たちはいつも、職員室でご飯食べてる。」

「ふうん。」

「それより、何の用だ?」

「これ。」


私は、二段になったお弁当箱を差し出した。


「夏休み、私言ったでしょ。ごはん、作ってきてあげようかって。」

「ああ。でも確か、俺は断ったはずだが。」

「受け取ってくれないの?」

「あ、いや。……すまないね。」


夏目は苦笑いしながら、お弁当箱を受け取ってくれた。

厳しいくせに、押しに弱い。

夏目のことが、段々わかってきた気がする。


「一緒に食べていい?」

「だめだ。」

「先生の意地悪。」


べーっ、と舌を出して見せると、夏目は吹き出した。


「じゃあね。行っちゃうよ、私。」

「聞き分けがいいんだな。」

「もうお弁当作ってあげない。」


夏目に背を向けると、背後から声が追いかけてきた。


「お茶いれるよ。」

「いていいの?」


振り返ると、夏目は難しい顔でうなずいた。

私は、顔中で笑うと夏目の隣に座った。
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