四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
その日も、いつもと同じように生物準備室へ向かった。


「失礼しま、」


中から、女の人の声がする。

聴いていると、夏目と話しているみたいだ。


「夏目先生、じゃあ、今日の放課後に。」

「ああ。今日はレンタカーを借りたから、正面玄関のところで待っててもらえるかな。」

「ええ。6時ごろで良かったかしら。」

「うん。生徒の質問があったりしたら、もうちょっと遅れるかもしれないけど。」

「待ってるから、安心して。」

「じゃあ。」

「では。」


扉が開く気配がしたが、私は隠れる場所もなく、その女の人と相対してしまった。


「あら、お待たせしたみたいね。」

「……。」


私は無言で女の人を見た。

生物の実習助手の篠原さんだ。

夏目と同じ年くらいだろうか。

今まで気付かなかったけれど、良く見ると綺麗な人だった。
微笑み方や、視線に、私にはない大人の魅力を持っている。

私の心がうずいた。


「なんだ、小倉か。入ってきてもよかったのに。」

「別に用なんかないもん。」

「え?お弁当作ってきてくれたんだろ?」


夏目が出した手をはたく。


「はっ?痛っ、……何するんだ。」

「今日作るの忘れちゃった!」

「おい、だって二個持ってるじゃないか。」

「私の。」

「そんなに食べるのか?」

「ばか。先生のばか。」


涙がこぼれそうで、夏目に背を向けた。


「分かった。お前、なんか誤解してるだろ。」

「知らないっ!」


振り向かずに、私は走り出した。
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