四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
「おはよ……。」


朝から智が元気のない声であいさつしてくる。


「おはよ!どうしたのよ、智。」


途端に智は、私の胸に顔を押し付けて泣き出した。


「ど、どうしたの!」

「私、私見ちゃったの。」

「何を?」

「分かった。最近夏目先生が素っ気ないわけ。」


嫌な予感が胸をかすめる。


――私だって泣きたいよ。


「何を、見ちゃったの?」

「夏目先生が運転してる車の助手席に、篠原さんが乗ってたの。」


やっぱり。

昨日聞いた会話は、そういうことだったんだ。


「どんな感じだった?」

「すっごい楽しそうに……笑ってた。」

「そっか。」


そっか――


「詩織ー、私夏目先生のことほんとに好きなのに。篠原さんにとられちゃう。どうしよう……。」

「夏目先生、篠原さんのこと……。」

「やめて!もう言わないで。分かってるから。分かってる。」


智の声がしぼんでいって、最後は聞き取れないくらい小さい声になった。


まるで、素直になった自分を見ているようだった。

慰めてあげたいけれど、その慰めは、自分に対してする慰めと同じ意味を持つ。

私は、誰かに慰めてほしいなんて、ましてや、自分で自分を慰めたいなんて、微塵も思わなかった。

智もきっとそうだろう。


私はただ、智が泣き止むまで、智の背中に手を置いていた。
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