四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
動揺する智を見ていたら、私は案外冷静でいられた。

考えてみれば、夏目に好きな人がいるのは承知で、それでもそばにいたいと願ったのだ。

それが思ったより身近な人だったことに、少し驚いただけだ。

しかも、篠原さんが夏目の好きな人だと、まだ決まったわけじゃないのだ。


何より、私はあの日、夏目にはもう会えなくなるかも知れなかったのだ。

それがこうして、期限付きであってもそばで会える。話せる。

何の不足があるだろうか。


問題はむしろ、夏目ではなく篠原さんの方にあった。


「せんせー。」


いつもの通り生物準備室にお弁当を届けに行く。


「あら、あなたは2年1組の小倉さんね。夏目先生に何か用?」


篠原さんが門番のようにドアの前に立っていた。


「……。」


押しのけて入ろうとすると、篠原さんはきっとにらんだ。


「教師に向かってそんなことするの?」

「夏目先生、開けて!」

「開けてくださいでしょ。タメ口をやめなさい。」

「せんせっ!」


やっとドアが開いて、夏目が顔を出した。


「何してる?ほら、小倉おいで。」


振り返ると篠原さんと目が合った。

私はすぐにそらす。


でも夏目が私を呼んだんだから、ちょっとくらい邪魔してもいいよね。

これが私の、彼女に対する宣戦布告だった。
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