四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
「先生、いつヒヨコに会いに来てくれるの?」

「そのうち、な。」

「ほら、嘘じゃん。」

「嘘じゃないよ。」

「じゃあ、今日来る?」

「今日は職員会議。」

「明日は?」

「明日は出張。」

「ほらね、先生のうそつき。」


そう言って追いつめると、夏目は困った顔をする。

もっともっと困らせたい。

そして、私を忘れられない生徒にさせるんだ。


「じゃあ、金曜日来てよ。」


夏目はじっと考え込んだ後、言った。


「いいよ。ただしちょっとだけだからな。ヒヨコみたらすぐに帰る。」

「はいはい。」

「なんだ、その返事は!」


私の適当な返事に、夏目が少し怒る。


「約束だよ。」


私は小指を差し出す。

先生も手を伸ばしかけた。


その時、ノックの音がして夏目ははっと手を引いた。


「はい。」

「失礼します。」


入ってきたのは篠原さんだった。


「夏目先生、今日の職員会議の資料、まだもらってないかと思って。」

「ああ、ありがとう。そこに置いておいてもらえる?」


篠原さんは、ここぞとばかりに微笑んで、頷いて見せる。


「小倉さん、ここは準備室よ。いつまで居座ってるの?夏目先生迷惑してるから戻りなさい。」


反対に私に向けるのは、氷のような目だ。


「ああ、いいんだよ、篠原さん。俺迷惑してたら追い返すから。」

「そうですか?それなら、いいですけど。」


篠原さんはぷいっと横を向いて、部屋を出て行った。

今日のところは私の勝ちだ。


「ねっ?先生、約束。」


リベンジしようと小指を差し出すと、夏目は分かった分かった、とか言いながら席を立ってしまった。

私の完全勝利とはいかないみたいだ。



このときの私は、恋の恐ろしさをまだ何も知らないほど幼い、一人の高校生にすぎなかった。
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