四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
車が止まったのは、おしゃれな洋館の前だった。
「詩織。」
父が呼ぶ。
私は、少し緊張しながら車を降りた。
偉い人とでも会うのだろうか。
粗相がないようにしなければ。
通されたのは、何もかも真っ白でこぎれいな部屋だった。
テーブルに飾られたバラの花だけが、印象的な鮮やかさだ。
天窓からは青い空が見える。
私は、こんなにきれいな建物をいまだかつて知らなかった。
「もうすぐ来ると思うんだが。」
落ち着かない様子で父が腕時計を見る。
父を焦らせる人とは、いったい誰なのだろうか。
しばらくして、扉が開いた。
反射的に父が立ち上がる。
私も慌てて立ち上がった。
「こんにちは。お待ちいたしておりました。」
「お待たせしてすまないね。……おお、そちらがお嬢さんですか。ほら、秋(しゅう)、ごあいさつを。」
「こんにちは。はじめまして。小原秋と申します。」
「こっ、こんにちは。」
慌てて返した私に、秋は微笑みを向けた。
信じられない……。
テレビの中でしか見たことのないほど整った顔立ち。
余裕のある微笑み。
さわやかで通った声……。
「自己紹介を。」
父に急かされて、自分の名前を言うことさえ忘れていたことに気付いた。
「あっ、私は、小倉詩織と申します。よろしく、お願いします。」
ぺこぺこと頭を下げる。
気付くと、秋はずっと私を見つめていた。
私は、なんだかドギマギしてしまって視線を返せない。
「君は、公立高校に通っていると聞いたよ。」
「は、はい。」
「それに、東京に引っ越すのは嫌だって言うのも。」
「あ……。」
「僕、君の気持ちがよく分かるんだ。だから、君みたいな普通な女の子に惹かれる。」
――惹かれる?
「どうかな、お父さんも賛成してくれているんだ。君との婚約にね。」
「婚約……?」
「そうだよ。僕は君の姿を一目見て、これは運命だと思った。」
「えと、」
私はそっと父を振り返る。
しかし、慌てているだろうと思った父は、涼しい顔で私に目を合わせようともしない。
――もしかして……
『こっちにも手がある』
父は……
「詩織。」
父が呼ぶ。
私は、少し緊張しながら車を降りた。
偉い人とでも会うのだろうか。
粗相がないようにしなければ。
通されたのは、何もかも真っ白でこぎれいな部屋だった。
テーブルに飾られたバラの花だけが、印象的な鮮やかさだ。
天窓からは青い空が見える。
私は、こんなにきれいな建物をいまだかつて知らなかった。
「もうすぐ来ると思うんだが。」
落ち着かない様子で父が腕時計を見る。
父を焦らせる人とは、いったい誰なのだろうか。
しばらくして、扉が開いた。
反射的に父が立ち上がる。
私も慌てて立ち上がった。
「こんにちは。お待ちいたしておりました。」
「お待たせしてすまないね。……おお、そちらがお嬢さんですか。ほら、秋(しゅう)、ごあいさつを。」
「こんにちは。はじめまして。小原秋と申します。」
「こっ、こんにちは。」
慌てて返した私に、秋は微笑みを向けた。
信じられない……。
テレビの中でしか見たことのないほど整った顔立ち。
余裕のある微笑み。
さわやかで通った声……。
「自己紹介を。」
父に急かされて、自分の名前を言うことさえ忘れていたことに気付いた。
「あっ、私は、小倉詩織と申します。よろしく、お願いします。」
ぺこぺこと頭を下げる。
気付くと、秋はずっと私を見つめていた。
私は、なんだかドギマギしてしまって視線を返せない。
「君は、公立高校に通っていると聞いたよ。」
「は、はい。」
「それに、東京に引っ越すのは嫌だって言うのも。」
「あ……。」
「僕、君の気持ちがよく分かるんだ。だから、君みたいな普通な女の子に惹かれる。」
――惹かれる?
「どうかな、お父さんも賛成してくれているんだ。君との婚約にね。」
「婚約……?」
「そうだよ。僕は君の姿を一目見て、これは運命だと思った。」
「えと、」
私はそっと父を振り返る。
しかし、慌てているだろうと思った父は、涼しい顔で私に目を合わせようともしない。
――もしかして……
『こっちにも手がある』
父は……