四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
父は私と夏目を引き離すために……?


「あの、申し訳ありませんが、そんなこと初耳で。私そういうつもりないですから。」

「詩織!なんてことを言うんだ。誰に向かって、」

「とにかく、帰ります、私。ごめんなさい。」


三人の視線を浴びながら、足早に建物から出た。

冗談じゃない。

突然婚約なんて。


帰り道は知らない。

でも、知っている行先のバスがあったので、とりあえず乗り込んだ。


父が分からない。

なぜそこまでして私を夏目から遠ざけようとするのか分からない。

なんだかそこに、父親の愛情ではない何かがあるような気がして、私は怖かった。

最初に父に会った日、夏目に言われた言葉を思い出す。


「そいつはお前を捨てた男じゃないか!何がお父さんだ。ほんとのお父さんは、」


あの後、私が遮ってしまったあの後、夏目は何を言おうとしていたのだろう。

私が目を背けてきた何か大切な言葉が、そこには隠れている気がした。


お父さんを信じたい――


あの時確かに私は言ったのだ。


お父さん、何を考えているの?

本当に私のこと大切なの?

その答えを聞くのは何よりも怖かった。
< 87 / 182 >

この作品をシェア

pagetop