四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
「おいしい?」

「ああ。おいしい。お弁当と違ってあったかいし。」

「あったかいね。もう秋だもんね。」

「だんだん涼しくなってきたよな。」

「寂しい。」


一言つぶやいた私を、夏目は何も言わずに見つめた。


「ごめんな。」

「どうして?」

「俺、やっぱりお前のこと、分かってやれなくて。」


心臓がトクンと跳ねた。

担任として、教師として言っているんだと分かっている。

でも、それ以上に、嬉しかった。

分かろうとしてくれる夏目が、嬉しかった―――


「私は一人じゃないよ。」

「え?」

「先生がここにいる限り、私は一人じゃない。」

「ああ。」


夏目は優しく笑った。


「そうだよ。」


その時、私の中で警報音が響いた。

だめだって、もうこれ以上。

この人に近づいてはいけない。

好きになってはいけない、と―――


警報音は止まらない。

さらに大きな音で私を苦しめる。


夏目の笑顔が優しいほど、その言葉が暖かいほど。


「どうした?小倉。」

「ううん。何でもない。」


やり過ごそうとしたその時、追い打ちをかけるように思い出したくない光景が浮かんだ。

雨。

どしゃ降りの雨。

まっしろな、まっしろな……手。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。

何万回繰り返したかしれないその言葉を、再び心の中で唱える。


「先生、」

「ん?」

「ごめん、やっぱり帰る。」


夏目は心配そうに私を見た。

その表情を見ていると、警報音は大きくなっていく。


「送ってく?」

「ううん。大丈夫。」


飛び出すように夏目の部屋を出た。

頭がくらくらして苦しい。

でも、階段を下りるころには警報音はもう止んでいた。


言い様のない空しさとともに。
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