四月の魔女へ ~先生と恋に落ちたら~
「もしもし……秋?」

「詩織?君からかけてくるなんて珍しいね!」


電話の向こうから聞こえてくる無邪気な秋の声。

私は今から、この人のことも裏切ろうとしている。


「あの、さ……。」

「別れて、でしょ?」

「え?」

「分かってたよ。君はいつも、僕ではないどこか遠くを見ていたからね。この間はごめん。強引に。そんな君を、そうしてでもつなぎとめておきたかったんだ。」

「ごめんなさい……。」


秋は分かってたんだ。

私が秋を愛していないことを。

申し訳ない気持ちが、とめどなくあふれてくる。

こうして私は大事な人を裏切り続けるんだろう。


「謝ることないよ。あと、相談なんだけど。」

「何?」

「しばらくの間、まだ付き合ってることにしよう。それで、いつかばれたら、僕が振ったことにしていいよ。」

「どうして?」

「君はもし、自分から僕との婚約を解消したことがお父さんに知られたら、都合が悪いだろう?」

「……う、ん。」


涙が止まらなくなった。


「なんで秋は……なんでそんなに優しいの?私、秋に何にもしてあげられなかったのに……。」

「君は僕に本当の恋をくれた。それだけで十分だよ。……じゃあ、もうすぐ昼休みが終わるから。」

「うん。」

「さよなら、詩織。」


電話が切れた。

私はフェンスに寄りかかって、やるせない気持ちで空を見上げた。


この透き通った秋空は、私の心情に悔しいくらい正反対だ。


「ごめんね……。」


私はだれにともなくつぶやいた。
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