私のお人形
「ユリちゃん…」

先生が制した。

「ユリちゃんが嘘を言っているなんてちっとも思ってないのよ。でも人間てね、不思議なもので、こうなったらいいなあって思っていると、それが本当に起こったような気がしたりするのよ。だからね、セーラがしゃべったらいいなってきっとユリちゃんが強く思っていたんだと思うのよ」

「違います。セーラは本当にしゃべったんです。ちゃんと私に教えてくれたんです。今だってきっと話します」

つつうと涙が頬を伝っていた。

悔しかった。

だってセーラは本当にしゃべったんだから。

泣きじゃくる私をなだめながら、先生はセーラをもう一度手に取った。

そして背中のボタンをはずし、その奥を確かめているよう。

「ほら、ユリちゃん。ここを見て。セーラには乾電池が入ってないでしょ。だからね、しゃべるわけないのよ。あとでお母さんに電池を買ってもらいなさいね」

セーラの背中は確かに空っぽだった。
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