歌姫桜華




 今までつっ立っていた奏多は「座っていいか?」と聞き私が頷くと、深くソファに腰かけた。




「――――いつかは、言わねぇとなって思ってたし、言いたかった。


 だから、今、言うよ」




 軽くフッと微笑むと、私の顔を見て話だそうとした。



「無理…してない?」



 でも私は、奏多が話す前に聞いた。



 無理してるんだったらやめて。辛い過去の一つや二つ、持ってて当たり前だから。


 聞かれたくないんだったら、いいよ。言わないで。


 わかるもん、その気持ち。ごまかしたくなる、その気持ちが。





「無理なんかしてねぇよ。



 俺が、話したいだけだし。……それに、美藍にはなんか言いたかった。なんでだろうな」





 奏多は手に持っていた色紙とペンをテーブルの上に置き、今度こそ話し始めた。



< 322 / 830 >

この作品をシェア

pagetop