歌姫桜華




「女好きって言われるようになったきっかけは、俺がまだ小学六年だった頃―――――



 俺は母さんと二人暮らししてたんだ。女手一つで育ててくれた母さんは、朝から夜まで必死に俺のために生活のために働いてくれた。


 俺の自慢の母さんと、これでも幸せに暮らしてたんだ。ボロアパートに住んでたけど、貧乏だったけど、この生活が嫌だと思ったことは一度もなかったんだ。





 …けど、そんな日々はある日突然なくなったんだ。




 学校から帰ってくると、いつも母さんがいない。それは当たり前だった。…けど、その日はいつもとなんか違ったんだ。違和感を感じたんだ。


 いつもと同じ家なんだけど、少し広くなったっていうか……物が無くなったっていうか。


 最初は空き巣かとも思って、家の中一応調べてみると、母さんの物だけ無くなってたんだ。




 変だと思って、もう一度部屋を見渡してみると、いつも食事してるテーブルの上に置いてあったんだよ。俺への手紙が」





 聞きやすい速さで、淡々と話す奏多の顔は意外にも清々しくて、不覚にもドキッとしてしまった。



 すごいな…。よく過去を人に言えるなぁ。私にも真似できたらいいのに。


 私にはまだ勇気が足りないみたいだ。



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