歌姫桜華




「その手紙にはこう書いてあったよ。



 『仕事がクビになってしまい、奏多を育てるお金や自身がなくなりました。ごめんね、奏多。
  こんなひどい母親でごめんなさい。
  勝手に家を出てごめんないさい。


  育てられなくて…一緒に過ごせなくて……ごめんね。



  母より』



 愛情の欠片も感じられなかった。『ごめん』ばかり書かれたその手紙を、俺はクシャクシャに丸めて捨てたよ。


 でも、不思議と憎しみとか殺意とか…そんな感情はなかった。


 ただそんときは、むしゃくしゃしてたんだろうな。

 一人だけ逃げて、俺だけ取り残されて。全てがバカバカしく思えたんだろうな。



 数日経って、アパートの大家さんが来て追い出されたよ。金払えねぇなら出てけ!、てな。


 俺は学校に行かなくなり、毎日毎日歩き続けたよ。


 行くあてもなにもなくて、どうすればいいか悩んでたとき。




 ――――俺に『大丈夫か?』と声をかけてくれたのが、そんときの甲羅の総長だった」




 私なら、母に捨てられたらきっと殺意を覚えると思う。


 私を捨て一人でいなくなった母を、一生恨んだよ。きっと。



 そう考えると、奏多は大人なんだなって思った。逆に、もっと子供らしくしてればよかったのに、とも思った。


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