歌姫桜華



 ―――あれは、去年の春。




 まだ、父と母が生きていた頃に遡る。





「美藍ももうすぐで高校生ね」




 春休み。



 桜が咲く、そんな季節。





 寝起きの私に、母が皿洗いをしながら呟いた。





「そうだよー」



「時間が経つのは早いもんだな…」





 その日は休日で、まったりと新聞を読んでいいた父が母の言葉を聞いてそう言った。




「美藍も美橙も、どんどん大人になっていくわね」


「あぁ、そうだな」



 寂しそうに微笑む二人。


 私は、そんな二人とじっ…と見つめていた。



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