歌姫桜華
寮から影狼の倉庫までは結構距離がある。普通なら車やバイクで行く。
でも私にはそんなのない。だから、走る。一秒でも早く着くために。
――――息が荒くなる。
「はぁはぁ…」
小さく呼吸をしながら、やっとついた倉庫近くで足をいったん休める。
息が“いつも通り”になり、呼吸を整える。心臓がバクバク鳴っている…。私は胸に右手をあて落ち着かせる。
「ふぅ……」
息を深く吐いてから、「すぅ」と吸い込む。
「よし…」
小声で気合を入れてから、気配を消しつつ倉庫の中を隠れながら見る。