歌姫桜華
恐る恐る咲久の手に私の手をのっけると、咲久の腕にグイッと引っ張られ、無理やり立たされた。
…咲久、いつの間にそんな強い力をつけたの?
やだ…。知らない咲久が増えてってる。私の知ってる咲久は、かっこかわいい犬みたいな気弱そうな男子だよ?
そんな、強くて紳士で甘いセリフを言う咲久じゃない。……のに。
心が飛び跳ねてるみたいな、そんな感覚に落ちている。
トクン…トクン…って、だんだんと加速させながら脈をうっている。
この気持ちはなに?
「朱綾?」
ボーッとしていた私の顔を覗き込みながら、そう言った咲久。
「…あ、ごめん。ちょっととんでた。
ハハッ、行こ?」
私は咲久の手をひきながら、屋上をあとにした。