歌姫桜華
今日はうっすらとメイクもしている。
可愛いって、少しでも思われたくて必死なんだ。
5月といっても、夕方になると少し寒くなる。
でも昼間は温かい。
ニットワンピでちょうどいいくらいかな。
今日は女の子の“美藍”として、デート楽しむぞ!
「なあ、…そろそろ行こうぜ?」
「そうだな。もうすぐ始まる時間だしな」
「お前、初めてだっけ?」
「いや、二回目。もうすっかり虜だよ。ハハッ」
……嫌な予感が、胸をざわつかせた。
私の目の前を通り過ぎた若い男二人組。
雰囲気が少し黒く、桜華としての勘がはたらく。
やばい感じがする。
何かの虜になっているから、その何かのためにこれからどこかへ行くみたいだ。
その“何か”がなんなのか。…嫌な予想しか立てられない。