異世界で家庭菜園やってみた
3.家庭菜園始めます
1.菜園計画始動
リュールからディントに戻って来るとすぐに、悠里は菜園計画を始めた。
ウリエルに手伝ってもらいながら、差し当たっての必要な人数と作業日程をまとめていったのだ。
それは、なかなか骨の折れる仕事だった。
ウリエルは野菜など育てたことがないし、悠里も祖母に言われるままにしていたから、種をどれだけ仕入れたらいいかとか、肥料がどのくらい必要だとか、全く分からなかった。
コウメさまの邸の図書室で二人、ようやく見つけた、この国で唯一存在していると思われる『農業大全』を脇に置いて頭を悩ませていた。
「はあ。自分ちでする家庭菜園なら、適当にしてても野菜育つけど。国家事業になったら、適当って訳にいかないよねえ」
悠里はこめかみを押さえながら愚痴めいたことを口にした。
「国家事業って思わなければいいよ」
「ええ!でも、マリュエル……マリーも国王の命令だって知ったら、作ってくれる気になったでしょ。やっぱりこれって、国から与えられてる仕事なんだよ」
「……まあ、そうかもしれないけど……。でも、ユーリがどれだけ楽しいかってことが大切じゃないのかな?」
「え?」
「野菜を作ることが好き。畑を耕すことが好き。それが根本にあるから、ユーリは家庭菜園をこの国に広めようって思ったんだろ?だったら、まずユーリがこの一連の作業を楽しまなきゃ。国王の命令だとか、そう言うことは置いておいてさ。そうじゃないと、肩凝るよ」
ウリエルの瞳から優しさが溢れ出す。
それに打たれ、受け止めきれず、悠里は俯いてしまった。
「ありがとう。ウリエルさん……」
か細い声で礼を言う悠里に、ウリエルは微苦笑を零して手元の書類に目を戻した。
「俺、ユーリと一緒に出来て、凄く楽しいよ。家庭菜園」
「わたしも。わたしも、ウリエルさんと一緒だと楽しいです!」
顔を上げ、これだけは言っておかなければと、一生懸命に声を出した。
「本当に?邪魔じゃない?」
「そ、そんな。邪魔だなんて。こんなに良くしてもらってて、甘やかされてるくらいなのに、ウリエルさんのことすっごく頼りにしてるよ」
「そう。それは、良かった」
そう言ったウリエルは、どこか寂しそうな表情をして、それを隠すように、また書類に目を戻した。
「ウリエルさん?」
めったに目にしない、ウリエルの一瞬の表情が気になって、悠里はウリエルを見つめたまま固まっていたが、それに気付いた当のウリエルに、「ほら。続きして」と促されてしまった。
「あ。ご、ごめんなさい」
「ねえ。ユーリ」
「はい?」
「そろそろ、ウリエルさんて、やめにしないか?」
「へ?」
「ウリエルでいいよ。ウリエルで」
……ボン!と音が出そうなくらいに、一気に顔を赤くした悠里。
それをおかしそうに見ながら、ウリエルは肩をすくめた。
「ウリエルって呼んでくれたら、明日はいい所に連れて行ってあげる」
「……いい所?」
「そう。いい所」
顔が熱い。胸がドキドキしてる。
それを隠すように、悠里は脇に置いた『農業大全』をぱらぱらと捲った。
「いい所」って、どこだろう。
とても興味があるけれど、「ウリエル」と呼ばなければ、連れて行って貰えないらしい。
自分は、彼を呼び捨てにすることを敢えて避けて来たのだという事に、悠里はこの時初めて気が付いた。
聡いウリエルは、その事に気付いてる?
二人の関係を今のままで留めていたい。それが、悠里の思い。
兄と妹のような関係のままでいいのだ。
それ以上は、望まない。望みたくなかった。
でも。きっと。ウリエルはそれ以上を望んでいる。
チェサートのレストランでそれらしき事を言われてからは、ウリエルもそれらしい素振りを見せることはなかったけれど、いくら鈍い悠里でも、そのくらいは分かるのだ。
ウリエルに手伝ってもらいながら、差し当たっての必要な人数と作業日程をまとめていったのだ。
それは、なかなか骨の折れる仕事だった。
ウリエルは野菜など育てたことがないし、悠里も祖母に言われるままにしていたから、種をどれだけ仕入れたらいいかとか、肥料がどのくらい必要だとか、全く分からなかった。
コウメさまの邸の図書室で二人、ようやく見つけた、この国で唯一存在していると思われる『農業大全』を脇に置いて頭を悩ませていた。
「はあ。自分ちでする家庭菜園なら、適当にしてても野菜育つけど。国家事業になったら、適当って訳にいかないよねえ」
悠里はこめかみを押さえながら愚痴めいたことを口にした。
「国家事業って思わなければいいよ」
「ええ!でも、マリュエル……マリーも国王の命令だって知ったら、作ってくれる気になったでしょ。やっぱりこれって、国から与えられてる仕事なんだよ」
「……まあ、そうかもしれないけど……。でも、ユーリがどれだけ楽しいかってことが大切じゃないのかな?」
「え?」
「野菜を作ることが好き。畑を耕すことが好き。それが根本にあるから、ユーリは家庭菜園をこの国に広めようって思ったんだろ?だったら、まずユーリがこの一連の作業を楽しまなきゃ。国王の命令だとか、そう言うことは置いておいてさ。そうじゃないと、肩凝るよ」
ウリエルの瞳から優しさが溢れ出す。
それに打たれ、受け止めきれず、悠里は俯いてしまった。
「ありがとう。ウリエルさん……」
か細い声で礼を言う悠里に、ウリエルは微苦笑を零して手元の書類に目を戻した。
「俺、ユーリと一緒に出来て、凄く楽しいよ。家庭菜園」
「わたしも。わたしも、ウリエルさんと一緒だと楽しいです!」
顔を上げ、これだけは言っておかなければと、一生懸命に声を出した。
「本当に?邪魔じゃない?」
「そ、そんな。邪魔だなんて。こんなに良くしてもらってて、甘やかされてるくらいなのに、ウリエルさんのことすっごく頼りにしてるよ」
「そう。それは、良かった」
そう言ったウリエルは、どこか寂しそうな表情をして、それを隠すように、また書類に目を戻した。
「ウリエルさん?」
めったに目にしない、ウリエルの一瞬の表情が気になって、悠里はウリエルを見つめたまま固まっていたが、それに気付いた当のウリエルに、「ほら。続きして」と促されてしまった。
「あ。ご、ごめんなさい」
「ねえ。ユーリ」
「はい?」
「そろそろ、ウリエルさんて、やめにしないか?」
「へ?」
「ウリエルでいいよ。ウリエルで」
……ボン!と音が出そうなくらいに、一気に顔を赤くした悠里。
それをおかしそうに見ながら、ウリエルは肩をすくめた。
「ウリエルって呼んでくれたら、明日はいい所に連れて行ってあげる」
「……いい所?」
「そう。いい所」
顔が熱い。胸がドキドキしてる。
それを隠すように、悠里は脇に置いた『農業大全』をぱらぱらと捲った。
「いい所」って、どこだろう。
とても興味があるけれど、「ウリエル」と呼ばなければ、連れて行って貰えないらしい。
自分は、彼を呼び捨てにすることを敢えて避けて来たのだという事に、悠里はこの時初めて気が付いた。
聡いウリエルは、その事に気付いてる?
二人の関係を今のままで留めていたい。それが、悠里の思い。
兄と妹のような関係のままでいいのだ。
それ以上は、望まない。望みたくなかった。
でも。きっと。ウリエルはそれ以上を望んでいる。
チェサートのレストランでそれらしき事を言われてからは、ウリエルもそれらしい素振りを見せることはなかったけれど、いくら鈍い悠里でも、そのくらいは分かるのだ。