異世界で家庭菜園やってみた
「え、えっと」

「ん?」

「明日は、コウメさまのお茶会に出るから……」

「……それは、俺も出るよ。その後に行こうよ」

「う、うん……」

もじもじと俯く悠里に気付かれないように溜め息をついたウリエルは、「ごめん。困らせるつもりはなかったんだ」と言って、書類を片付け始めてしまった。

「ウリエルさん?」

「いい所、お茶会の後に行こうね」

「あ、あの」

「無理なことは無理って、はっきり言ってくれたらいいんだ。これから外務部に行って来るよ」

「はあ……」

そう言い置いて、図書室をさっさと出て行ってしまったウリエル。

「怒らせちゃったのかな?」

悠里はしゅんとなって、無意識に『農業大全』を弄んでいた。

ここまで世話になっているウリエルのことを、呼び捨てにするくらい構わないじゃないかと自分でも思う。

でも、そうしようと思う程、緊張して、顔が火照ってしまう。

(わたし、ウリエルさんの事、意識してるんだ……)

なんとも思ってなかったら、本当に兄のように思っていたら、きっとすんなり呼び捨てに出来ただろう。

(そうか。わたし、ウリエルさんのこと……)

好きとまでは行かないけれど、きっと彼は特別なのだ。

でも。

コウメさまのように、好きな人の胸に素直に飛び込むことが出来ればいいけれど。

悠里はまだ元の世界に未練がある。

だから自分の気持ちに素直になり切れない。

ウリエルの差し出す手を、心から握り返すことは出来なかった。





< 104 / 152 >

この作品をシェア

pagetop