異世界で家庭菜園やってみた
翌日、コウメさま主催のお茶会には、国内の主たる貴族のご婦人方がこぞって参加した。

応接室には母親くらいの年の女性ばかりが集い、悠里は部屋の隅で小さくなっていた。

コウメさまとウリエルはご婦人方への挨拶で、悠里を構っている余裕はないようだ。

だから悠里はひたすら、(わたしは貝。わたしは貝)と頭の中で唱え続けていた。

けれど、この年回りの女性達が、たった一人の妙齢の女性を見逃す筈はなく、時を置かずして、悠里はおばさまがたの話題の中心になってしまった。

助けを求めて視線を彷徨わせても、まだウリエルたちは挨拶回りの真っ最中。

深い溜め息をついて、悠里はおばさまがたに貼り付けた笑みを向けた。

「コウメさまが、召喚された少女をお引き取りになったというのは、本当だったのねえ」

「でも、それが一番良いでしょうね。コウメさまも、かつて召喚されて、この国にいらしたのですもの」

「それで、先の大公殿下に見初められて……。いつ聞いても、ロマンティックな物語ですこと」

おばさまがたの好機の目に晒され、悠里は一言も返せない。

ただ、早く時間が過ぎてくれるのを祈るばかりだった。

「ねえ。あなた」

不意に、遊里に声がかけられた。

そうなっては返事をしない訳にもいかない。

「は、はい」

「あなたはウリエルさまと婚約なすったの?」

「は?」

「王宮では専らの噂なのよ」

「と、と、とんでもありません!どうして、わたしなんかがウリエルさんと……」

「あら、違うの?でも、一緒に婚前旅行にも行かれたのでしょ?」

おばさまがたの目がランランと輝いている。

悠里は一層顔を引きつらせて、ブンブンかぶりを振った。

「あ、あれは。あの旅行は、鍬を買い付けに行っただけです!」

「クワ〜??」

「はい。これからいっぱい野菜を作るから、そのために土を耕す道具を仕入れたんです。ウリエルさんはわたしに協力してくれてるだけで、全然そんな関係ではありませんから!」

「まあ……」
「そうなの?」

おばさまがたは、とても残念そうだった。

おそらく、噂話のいいネタが出来たとでも思っていたのだろう。

そこへ、一人のおばさまが興味をそそられたのか、身を乗り出してきた。

「野菜をいっぱい作って、どうするつもりなの?」

「え?あ、ああ。それは、ディントの地方の人たちにも野菜を食べてもらう為なんです」

「地方の?」

「はい!皆さんは、日常的に野菜を手に入れられると思うんですけど、地方の人たちの所までは流通して行かないんです。だから、野菜の作り方を覚えて貰って、自給自足してもらえば、地方の人も王都の人と同じように食料に困らなくなると思うんです」
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